最低なのに恋をした

あなたの味方です

私はパソコンの画面を見つめ溜息をついた。

専務が体調を崩してからのスケジュールが以前に増して過密なのだ。

熱は翌朝には下がったけれど、室長と相談し大事をとってその日も休んでもらった。

専務は「出勤する」と頑なではあったけど、顔色が悪すぎて「いいですよ」とはとても言えなかったのだ。

そして、発熱から1週間。専務は完全復活しているものの無理してまた体調を崩されては困るのに。
過密なのだ。休憩時間はほぼない。お昼も会食、夜も会食。

栄養も満足にとれていなさそうだ。
せめて栄養と考えるものの、私がつくってあげるわけにもいかないし。

専務のお姉さんのお店にお弁当をお願いする事も考えたが、お金がかかりすぎる。

高すぎるわけでもないけど、リーズナブルが売りのお店ではないのだ。

兄のお店は確かに食事は美味しいけれど、栄養のバランスは正直とれていない。

体調管理も秘書の務め、かどうかは不明だけれど私が気になる。
専務の食事や休息をちゃん取れているかが。

ものすごく勉強している事を感じてしまったから。

会食が続いているという事で、栄養が偏っているに違いない。

パソコンを見つめるというより睨みながらアレコレ考えていると目の前の電話が鳴った。
音で内線だとわかる。

「はい、秘書室安西です」
「今受付に専務に会いたいという方が来ておりまして」

受付の女性の声が僅かに震えているのがわかった。
「お約束はされてますか?」
「されていないようです」
受付の女性が言い終わるか終わらないかのタイミングで男の怒鳴り声が聞こえてきた。

「早く専務をだせ」
ドスの聞いた低い乱暴な声が受話器越しにもハッキリ聞こえた。

「もしもし、大丈夫ですか?」
私の言葉にも力が入る。

受付の女性の返答はない。警備員らしき声も聞こえるが何を話しているかは聞き取れない。

受付の女性が受話器を繋いだままにしてくれているのでこちらにも受付の状況を感じ取る事ができる。

非常事態だと察知し受話器を机に置いたまま、室長の所に急ぐ。

「室長、今受付に専務を出せと暴れている男が来ています」
私の声に秘書室がシーンと静まりかえる。

「暴れている男?今専務はどこにいる?」

室長が厳しい表情を浮かべ、私を見た。

「笠原商事に行っております。もう少しで帰社予定です」

そこまで口にした所で今、専務が受付前を通過するのは危険だと最悪の事態を想像してしまう。

トゥルルルルと内線の呼び出し音が響いた。出ようとしたが、他の社員がワンコールで電話を受ける。

「安西さん、専務に連絡を取って。会社に戻らないように伝えてください」

口早にそう言うと、室長の席にある電話の受話器をあげ内線ボタンを押し話し始めた。

専務に連絡をしなければと、私は自分のデスクに戻り専務によるの携帯電話に連絡をいれる。

呼び出し音はしてるものの出る気配がない。

5コール目で留守番電話に切り替わってしまった。

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