最低なのに恋をした
「本当に大丈夫ですから」
手をどけてください、そう言おうと思った時スッと私の手の重みがなくなった。

「さっきから君のお兄さんが睨んでいるから」

耳元でそう囁き男性は私の隣から立ち上がる。

そのまま会計を済ませ男性は私の事を見る事なく店を出て行った。

私はテーブルの10000円札をジッと見つめる。

なんだったのだろう。
最低な男の人だった。
でも…最低でもモテるのは理解できた。

あの顔と色気でこれまで女性を傷つけてきたのだろう。それでも女性は群がる。傷つける。その繰り返し。

私の元彼はそこまで悪人ではなかった。
私を傷つけたのは、今日だけだ。

周りからみれば、怪しいところがあったのかもしれない。
でも、私の前では優しかった。

目頭がジワっと熱くなる。
涙がこぼれた。
そう、結果的には二股かけられてたわけだけど。楽しかったよ。

涙が溢れだした。

元彼より最低な男を見たおかげで、楽しかった日々を思い出した。

今日、泣ききろう。カウンターの真ん中の席から端の席に移動した。

さっき兄から受け取ったタオルに顔をうずめる。泣き声が漏れないように。

兄のお店はもう閉店。
気づけばお客さんもほとんどいない。

兄は気づいているのかわからないけど声をかけてこなかった。

泣き止むのを待ってくれるのかな。
甘えさせてくれるのだから、思い切り甘えよう。そう思ったらますます涙が溢れた。
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