なぜ婚約者なのか説明書の提出を求む

 翌朝……。
 スマホの目覚ましで起こされた。

 七時……。

 八時半に出掛けるって言ってたよね。

 顔を洗ってからキッチンに行って、冷蔵庫を見る。
 
「うーん。何にしようか? まずコーヒーを入れよう」

 食パンが冷凍保存してある。
 玉葱、ピーマン、ハム、スライスチーズにケチャップ、マヨネーズ、コショー。
 ピザトーストに決めた。

 オーブントースターでこんがり焼く。

「うーん。良い匂い」


「おはよう」
玲於奈さんが起きて来た。Tシャツにスウェットパンツ。昨夜のままだ。

「おはようございます」

「美味しそうな匂いがする」

「はい。ピザトーストを作りました。コーヒーも入ってます」

「ありがとう。じゃあ頂こうかな」

「はい」
ダイニングテーブルに運ぶ。

「いただきます」
きちんと手を合わせて……。

 こういう所はちゃんとしてるんだ。

「冷蔵庫にピザソースなんてあったかな?」

「いいえ。ケチャップとコショーで代用出来ますよ」

「へぇ。美味いよ。これ」

「そうですか? そう言って頂けると嬉しいです」

「やっぱり君は良い奥さんになるな」

「はっ?」

「勿論、僕のね」
笑顔で言われても……。

 どんな顔をしたら良いのか分かりません……。

「ごちそうさま。本当に美味しかったよ」

 それから玲於奈さんは高級そうなスーツにセンスの良いネクタイを絞めてすっかり御曹司になり

「いってきます」

「いってらっしゃい」

「それ、毎日言って貰えると思ったら、なかなか良いもんだな」

「そうですか。子供の頃から普通に言われてたと思いますけど?」

「母さんに言われるのとは意味合いが違うな」

「同じだと思いますけど」

「そうか?」

「はい」

「じゃあ、もう行くよ」

「はい。お気を付けて」

「あぁ」
玲於奈さんは何が気に入ったのか嬉しそうに出掛けて行った。


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