鶴の音返し
「てめぇ、ふざけんなよ!
父親らしいこと何もしてねぇくせに、
医者としても何も出来ねぇのかよ!」

白衣がちぎれてしまいそうなほど力強く掴みかかった。

「すまん。最善は尽くした。」

医者になってから何百回、何千回と発したセリフ。

今回も特別ではなく、
いつもと何も変わらず同じ表情、
同じ口調で吐いた。

「最善を尽くした?
母さんも捨てて、
俺らのことも放ったらかしで仕事を取ったくせに、
息子一人助けられてねぇじゃんか!
どこが最善なんだよ!」

これまでの蓄積していた怒りも合わせて、
めいっぱい突き飛ばした。

「………すまん。」

去り際の背中越し、
ボソッと呟いた謝罪の言葉。

息子に届かせる気はなかった。
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