さまよう

 水道の水を二秒止めると、二秒後には二秒間に流れ出るはずだった水が一瞬にして溢れてくるのだ。

 テーブルからガラス製の花瓶が落ちそうになった時。時を止めてそれが再び動き始めた時には、その数秒を一瞬で取り戻す為に花瓶は床に叩きつけられ粉々になり、その破片は飛び散るだろう。

 一度動き始めた物の時間を止めたところで、その動き始めた物の運命を変えることは出来ない。しかし時を止めなければ花瓶はひびが入った程度で済んでいた。

 時を止めても花瓶が落ちる運命は変わらなかったが、落ちた後に大惨事となる方向へと花瓶の運命を変えることが出来てしまう。

 この能力を取り込む人間は比較的少ないが、双子ほどではない。しっかりと細かい記録が残っている。

 訳も分からず使っていい能力ではないのは確かだ。しかしそれを五歳の子供にどうやって伝えろというのか。




 少女が小学五年生になった頃。見通しのいい交差点で信号待ちをしている。

 何気なく横を見ると荷物を積み込んだ軽トラックが少女に向かって走ってきた。一瞬よそ見をしていたのかトラック運転手も焦った表情でハンドルを操作してなんとか回避しようとする瞬間が見える。

 しかし近い。今から方向転換をしたところで間に合わないだろう。

 少女は思わず両手を突き出し力を使ってしまった。急停止した車の運転手はシートベルトに守られながらもぐったりとうなだれている。
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