さまよう

「ネット上で情報を拾ったのであればどんな事故だったのかは知っていると思う。
 あの時、軽トラックが麻未ちゃんにぶつかりそうになったことは事実で、麻未ちゃんが思わず力を使ってしまったのも事実。

 でもその先は全て間違った情報なの。偶然が重なって、死者を出さなかった出来事は出来すぎていて単純に信じられなかったんでしょうね。
 それで話を作り上げてしまった人がいたんだと思うわ」

 双子と由美はどの言葉も聞き漏らさないようにしっかりと看護師を見つめている。

「麻未ちゃんが思わず力を使ってしまった時、その光景を見ていた人たちの中には同じく時を操る成人男性が居たのよ。
 麻未ちゃんの力はたしかに強いものだったけれども十秒以上も何かを止めて置けるほどの力は無かったわ。
 その男性が麻未ちゃんの力が途切れる前に自分も力を使って追加で軽トラックを止める時間を伸ばしたの。

 ほかにもその一部始終を見ていた男性が居た。
 その男性は瞬間的に筋力を増す力を持っていた。要するに怪力になる力ね。

 トラックの時が止まったことに気付いた彼は、急いでトラックに駆け寄り、運転席のドアを破壊して運転手を引きずり下ろした。
 そこまでの時間が大体十五秒くらいはあったかもしれないと言われているけど、ドアを破壊した人の判断力と行動の素早さは相当なものだったみたいね」

 用意されていたコーヒーを一口飲む。

 この話が本当なのだとすれば、都市伝説というのは全くの作り話ではないか。

 直接本人が見ることがなかったとしても、作り話を本当のことのようにばらまくなんて、個人を愚弄しているようなものだと双子は苛立ちを覚えた。
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