さまよう


 昼食を食べて外に出ると、スーツを着た男性が二人出迎えてくれた。

「目的地まで車でお送りします」

 シルバーの乗用車の後部座席に乗り込んだ二人。車中では特に会話もなく大きな駐車場に車は停められた。

 何かを買おうとは思っていたが、何を買うかまでは決めていない。とりあえず手近な店から回ることにした。

 車から降りて人だかりができるまでは数分とかからなかった。まれに存在する、能力に取り込まれた人間。

 特殊な能力を持った人間の記録はかなり昔から取られている。二人の母親のように物を操る能力は比較的記録しやすく、第三者から見てもわかりやすい能力だった。

 二人の能力と同じ、取り込まれた人間の記録はかなり少なく、一番新しい記録で百五十年前だという。

 特殊な能力を持った子供は、母体に居る頃から判ることが多い。最近であればエコー検査の最中に判明することがほとんどだし、なにより母体である母親がその違和感を感じ取れることが解っている。

 明らかな違和感、そして検査で判明した今までにない胎児の反応。特殊能力について調べている研究者たちは色めき立った。もしかしたら過去の記録でしか見たことのないもはや幻ともいえる存在が生まれるかもしれないからだ。

 記録には母親が能力者であること、子供が双子であることと記載があり今回と一緒だったのだ。

 すぐにその界隈に知れ渡り、毎日毎日何人もの人が母親のもとを訪れたのだとか。結果は見ての通りだ。当たり前のように連日報道陣が押し寄せ、様々情報を集めたいと駆けつける人達。

 ニュースでも報道され、記録に偽りはなかったと世界に知れ渡ることとなった。
 結果、彼らを知らない人はほとんどいない。あまり外に出ない二人はすぐに興味の対象となり、人だかりができ、絶叫され、間近でじろじろと見物され、勝手に恐怖を感じて逃げ出すのだ。


 翔が大きく動けば翔が他人に認識される。
 翼が大きく伸びをすれば翼が他人に認識される。


 歩くだけで彼らは消えて、彼らは映る。


 もう慣れた。これが二人の日常なのだ。それを制するように道を作り彼らを警護するのがスーツ姿の男性の役割である。


 これが彼らの普通だ。
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