私の婚約者には好きな人がいる
間水さんは誰かを探して、きょろきょろとフロアを見回した。

閑井(しずい)。高辻さんに簡単な仕事をお願いして」

「ぼ、僕ですかっ?」

人のよさそうな黒ぶちメガネをかけた幼い顔をした男の人がおどおどと近寄ってきた。

「机も隣にして面倒をみてやって」

「そんな……お嬢様になんて話せば……」

「気になさらないでください。お邪魔にならないよう精いっぱいがんばります」

「ええええ……」

閑井さんは困った顔をして頭を抱えていた。

「どうやって接したら……」

「それじゃあ、頼んだぞ」

間水さんがいなくなり、困り果てている閑井さんと二人になった。

「あの……雑用しか、僕は任せてもらえてなくて。そんな仕事でいいんですか?」

「構いません。それも立派なお仕事ですから!」

そう言うと閑井さんは安心したようにほっと息を吐いた。

「そ、そうですか?」

「はい」

閑井さんが優しい人で良かった。
惟月さんが言うように遊び気分ではいけない。
私は社会勉強とはいえ、会社にきているんだから!
せめて、遊びに来ていると思われないくらいには頑張りたい。

「ご迷惑かもしれませんが、よろしくお願い致します」

私の先生となる閑井さんに深々とお辞儀をしたのだった。
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