私の婚約者には好きな人がいる

恋と呼ぶなら

恭士(きょうじ)さんは自分の部屋に連れてくると、椅子の上に体を降ろしてくれた。

「手は切ってません」

「知っている。あの場から逃げるための口実に決まっているだろう」

「そんなことしていいんですか」

「泣きそうな顔をするからだろう」

恭士さんが頬を撫でた。

「…すみません。失敗してしまって」

「そうじゃない。腕見せてみろ」

赤くなっていた。

「冷やした方がいいな」

部屋のバスルームでハンカチを冷たい水でぬらすと、それをあててくれた。

「足は?」

恭士さんはそう言いながら、靴下を脱がし、足を持ち、踏まれたところと蹴られた箇所と見た。

「み、見なくていいですっ!」

恥ずかしすぎて、暴れると体を押さえつけられた。

「痛みは?」

「大丈夫ですからっ!手を離してください」

私が動揺しているのが、面白いのか、恭士さんは手を離してはくれなかった。
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