私の婚約者には好きな人がいる
―――働く!?
お仕事ってこと?
『お仕事』なんて素敵な響き。
前に働いてみたいと両親に言った時は大反対されてしまい、おこづかいが足りないのならと言われてカードを渡されてしまったけど……

ちがうの!そうじゃないの!
スーツを着て、会社に行って、素敵な男性と出会うラブストーリー。
ドラマでよくみるあのシーン。

『お茶をどうぞ』とか『コピーを頼む』なんてやってみたいの!
キラキラとした目で胸の前で手を組んでいるとお父様は笑った。

「やる気はあるようだな」

「本当にいいの?でも……」

婚約者の惟月(いつき)さんの顔を思い浮かべた。
色素の薄いサラサラの髪と瞳、白い肌、端正な顔立ち。
その綺麗な顔で私を見て嫌な顔をされたら?
ありえる……
私ができるのはピアノやお茶などの習い事くらい。
働くためのスキルは身に着けていない。

「惟月さんに迷惑じゃないかしら?私、働いたことがないから……お邪魔になると思うの」
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