私の婚約者には好きな人がいる

行き場のない身の上

夏乃子(かのこ)ちゃん。奥様が戻られるまで待ったら?」

「そうよ。宮竹(みやたけ)さんも少しは話を聞いてくれたらいいのに」

豊子(とよこ)さんと#祥枝(さちえ)さんはそう言ってくれたけど、申し訳ない気持ちで一杯だった。
下手をすれば、二人とも職を失うかもしれないのだから。
高辻(たかつじ)社長はすぐに出ていくように言ってきた。
帰ったなり、荷物をまとめだした私に二人は驚き、事情を話すと、怒ってくれた。
悪いのは私なのに。

「いいえ。所長は悪くないんです。私を信頼して、高辻に寄越したのに自分の立場も(わきま)えずにきちんと線引きできなかった私のミスです」

「人の気持ちは線引きできないわよ」

「豊子さん」

「そうよ。夏乃子ちゃんがきてから、恭士さんも笑うようになって、奥様もきちんと夕飯を召し上がるようになったのに」

「祥枝さん」

二人の優しさに救われた。
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