お嬢様は恋したい!
「そろそろイルカショーを見に行こうか。」

陸斗さんに誘われて、順路を無視しイルカスタジアムに移動すると、すでに見やすそうな席はほとんど埋まっている。

あきらめ、濡れるのを覚悟して前の方に行こうとした時、陸斗さんに手を引かれた。

「香ちゃん、あっち。」

陸斗さんの指す方を見ると鈴木主任が荷物をふた席分置いて、座っていた。

「一誠、席取りありがと。」

「陸のためじゃないし。」

ボソッとそう言う鈴木主任は、不機嫌そう。

「まぁいいや。香ちゃんは真ん中ね。」

陸斗さんと横で並んでも、肩を抱かれても緊張しないのに、狭い席に並んだせいで鈴木主任と肩が当たりそうな右側だけ妙に落ち着かない。

「どこ、行ってたんだ?」

かすかに聞こえた言葉に顔を上げると鈴木主任と目が合った。

「大水槽の窪みで、魚をずっと見てました。」

「そっか…」

こころなし、さっきより鈴木主任の雰囲気が柔らかくなったような気がした。

「イルカショーも良かったけど、私はここ気に入りました。」

ショーの後、私たちが来たのはライトアップされた綺麗なクラゲ水槽。

幻想的で見ていて飽きない。

「香ちゃんは、かわいいぬいぐるみより綺麗なジュエリーの方が嬉しいタイプか。」

陸斗さんがそう言って私の髪を持ち上げて触るから恥ずかしい。

ここ暗いけど人いっぱいいるし、鈴木主任だってすぐ横にいるんだから。

「そ、それより私は美味しいご飯の方がうれしいですっ。」

慌てて恥ずかしさを誤魔化すように言うと鈴木主任がクックッと肩を揺らして笑っていた。

「花より団子か。」

でも隣の陸斗さんは、鈴木主任を見て驚いている。

「一誠、お前こんなに笑う奴だっけ?」

「陸、そんな珍しいか。」

「だいたい仲間だけの時でも、笑うのが珍しいだろ。それがここまで…」

「なんかさ。香といると面白い事が多いし楽しいんだよ。」

「香ちゃん、そんな変わったこと言ってないと思うんだけど。」

私もそう思う。

なのに大した事じゃなくても、鈴木主任は仕事中の厳しい顔が嘘みたいにランチや仕事帰りに話をしている時、笑ってくれるんだ。

「ちょっとごめん。」

たわいのない話をしていると陸斗さんが、スマホを手に離れて行く。

休日の日曜日に仕事の話?

戻ってきた陸斗さんは、私に頭を下げた。

「香ちゃん、ごめん。急用が出来たから僕は先に帰るよ。一誠、香ちゃんを頼むね。」

「お、おい、車は?」

「一誠に預けとく。明日、会社に乗って来て僕の駐車スペースに置いてくれ。じゃ。」

陸斗さんが去るのを見送ると鈴木主任が、私を見た。

「どうする?このまま帰ってもいいけど、まだ全部見てないだろ。香が大丈夫なら…」

「大丈夫…というか全部見ていきましょう。」

陸斗さんには申し訳ないけど、鈴木主任とご飯以外で一緒にいられるなんて、もう二度とないかもしれないから、まだ途中なのを言い訳に帰らないことを選択した。

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