溺愛甘雨~魅惑の御曹司は清純な令嬢を愛し満たす~
突如現れた彼。
あの夜の彼が、まさか自分の勤め先の取締役だったなんて――――。

所詮、彼とは一夜の関係だ。

あの、いかにも女慣れしている様子。
ましてや御曹司。女性に苦労したことなんてないのだろう。

きっと、遊びで誘った女が突然自分の許可なく去ってしまったことに傷ついたプライドを取り繕いたいだけだ。

見くびるなと彼は否定したけれど、富裕層の男の人とはそういうものだ。
お父様の周りにいる男の人には、そうやって女性を軽んじる人が多いのを知っている。

もう彼に近付いてはいけない。

そう言い聞かせるようにきつく閉じた私の瞼には、それでも、あの夜の彼が浮かんでしまう。

まるで甘い蜜に惹かれてしまう蝶のように、彼の影を追ってしまう。彼を囲んでいたあの女性たちのように―――。

「忘れなきゃ、いけないんだ…」

そう自分に告げて、私は便箋に綴っていた定型文を読み直し、最後に封筒に感じ三文字を書いた。

辞表願。

名残惜しくて出せずにいたけれども、もう躊躇している状況ではなかった。





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