クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
けれども他の客に呼ばれて、彼女は俺に会釈すると足早に去ってしまった。

それから急に客入りが増えてしまい、彼女に話しかけられる余裕はなくなってしまった。

気付けば俺は彼女ばかりを目で追っていた。

すでに惹かれていた。
彼女の見た目、言葉遣い、歩き方、所作、そして教養…なにもかもに。

彼女はいったい何者なのだろう。
知りたい、もっと話したい…そう思いつめるばかりで、仕事などそっちのけでPCを上の空に眺めているばかりだった。

そんな俺を叱咤するように、社用スマホが鳴り響く。

『専務、お時間がだいぶ過ぎていますが、まだかかりますか?』
「…ん、ああ…。今出るよ」

秘書の高田を外に待たせているのを忘れていた。のろのろとPCをしまい帰り支度を始める。

最後にもう一度だけ、彼女と話したかった。

できれば名前を聞きたかったが、彼女は店の奥に入ってしまったようだった。
戻ってくるのを期待してのろのろと会計を済ませるが、あいにく彼女が出てくることはなかった。

まぁいい、社に戻ってから名前を調べよう。
おそらくアルバイトだろうから、店長に尋ねればすぐ分かるだろう。

俺はどこか夢見心地の気分で店の外に出た。
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