仮面
教室へ入って挨拶をすれば誰かが返してくれる。


だけどただそれだけで、休憩時間を恵一と一緒に過ごそうとしてくれる生徒はいなかった。


もしかすると最初のころは体が弱い恵一にみんなが遠慮していたのかもしれない。


だけどそう気がついたときにはすでに遅かった。


みんなそれぞれ仲のいいグループができていて、恵一はひとりで椅子に座っていた。


自分から声をかけてみても、ずっと入院していた恵一は流行り物や学校で人気なものなのに疎く、会話が続かない。


2言くらい話すのがやっとだった。


学校で孤独を感じ始めたときに出会ったのが、テレビの中の女性アイドルだった。


歌って踊って、トークもおもしろくて。


そんな彼女たちを見ていると自然と笑顔になれていた。


「恵一、これ誕生日プレゼントだ」


高校1年生の誕生日のときに父親から渡されたのは、その時恵一が一番熱を入れていたアイドルのライブ映像が入ったDVDだった。


コンサートなどももちろん興味があったけれど、まだまだ体力のない恵一は行くことができていなかった。


父親はそんな恵一の気持ちをちゃんと見ていてくれていたのだ。


DVDの中で彼女たちは沢山の人の前で輝いていた。


会場は熱気に包まれていて、とても恵一が長時間その場で耐えられるとも思えない状況だ。


父親からのプレゼントはとても嬉しかったが、それは同時に恵一に絶望も与えた。


自分たちは彼女たちを間近で応援することもできない。


コンサートで盛り上がることもできないと。
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