Letter - 大切な人 -

「オレは真面目に右手だけで走ったんだよ。ほかのやつらがみんな反則してたんだからな」

 くっくっく、とこらえながら笑う美利を見て智成は続ける。

「ていうかお前らこの場所から見ていてよくそこまでわかったな。ステージにしかライト付いてないのに」

 美利は少しだけ緊張した。

 智成のことを目で追っていたのがバレるのではないかと思ったからだ。

「生徒会のやつにスプーンの分弁償してくださいとか言われるし」

「あはははは」

 美利が豪快に笑ったところで智樹が『ちょっとトイレ行ってくるッス』と立ち上がった。

「おう、行ってこい」

 『あー、面白い』なんてことを言いながら美利は体育座りをしていた足を正面に放り出す。

「なあ」

 笑いすぎて目じりを少し擦る美利をちらりと見ながら智成は質問をしてきた。
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