追憶ソルシエール
追憶シャンパンゴールド

「あー、本格的にやばいかも」

「どうしたの? 体調悪い?」



休み時間。那乃はわたしの前の席に座り、振り返るや否や机に項垂れた。声をかけても「うぅ……」と苦しそうな呻き声をあげるだけで返事は来ない。



「保健室でも行く?」


保健室に行ったところで体調が良くなるとは限らないけれど休めば少しはマシになるはずだ。



いつもとはまるで様子が違うその姿に心配になる。那乃の顔色を伺おうとして、バンっといきなり大きな音が鳴った。音の出処は、机を叩いた那乃の両手。




「びっ、くりした」

「テストだよテスト! ほんっとにあたしピンチなんだけど!」



一瞬息が止まりかけた。体調が良くないと思っていた那乃は、相変わらず元気でいつもと変わらぬ大きな声を出した。



「ああ、テストね。もうすぐだよね」

来週に迫った期末テスト。ついさっきの授業でテスト範囲が配られた。


「あたしこの前赤点だったの知ってるでしょ? 今回頑張らないと補習になるんだって! それだけは避けたいの!」



助けて、なんてわたしの手を握り懇願するように上目遣いをしてくる。




補習は冬休みに5日間ほど行なわれる。冬休みの課題に加え、補習に呼ばれた人には多大な量の課題が課せられるらしい。冬休みなんてただでさえ短いのに、課題をしながら年末年始を過ごすのはいくらなんでも鬼だ。必然的に那乃と遊ぶ時間はなくなる。それはわたしにとっても避けたいところだ。
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