追憶ソルシエール

汐里さんに傘を届けるのを頼まれたあたりから夢だったんじゃないか、と思い始めたわたしはもうそういうことにしていたのだけど。


朝、家を出るとき傘立てに立てかけられた透明な傘を見た瞬間、現実だと受け入れるしかなかった。




「どうしたー? 朝からため息なんかついて」


急に顔を覗き込まれ、瞬きをすれば心配そうな顔を浮かべた那乃と目が合う。



「ため息ついてた?」

「うん、割と大きめで」

「わー無意識だ……」



翌日にまで影響を及ぼすくらい、自分の中でかなり大きな出来事だったんだろう。寝たら忘れるなんてそんな甘い考えは通じなかったらしい。




「まあたまにはそういう日もあるよー。高校生って大変じゃん」

「それ大人に聞かれたら生意気だって思われそう」

「いや、あたしたち学生には学生なりの悩みだったり忙しさがあったりするんだよ」

「…………たしかに」



問題を抱えている今、那乃の言葉にはかなりの説得力がある。

中間試験が終わったかと思えばすぐに期末試験が迫ってくる。勉強に限らず、放課後も部活動だったりバイトだったり、はたまた友達と遊んだり。授業を終えても各々忙しない日々を過ごしている。
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