なんでもない恋 #04 ぼっちランチと初夏の風。
 まさに今この瞬間に仕事中の彼がいるであろう企業ビルの前を、少しだけ速度を落として通過する。

 亮さんの会社は、住宅設備メーカーとして業界では老舗の大手企業である。近年になり、同じ業種の企業の買収、統合を進め、さらに飛躍的な発展を遂げていた。

 しかし、と彼は言う。ウイルス禍による経済の停滞の影響を受け、中国を拠点とした生産ラインが滞っており、予断を許さない状況にあると。

 運転に支障にならない程度に、役員会議で発言している彼の落ち着いた声を想像してみる。その声が、さっきの電話での「ありがとう」に重なる。


 
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