青い夏の、わすれもの。
「深月さん?」


自分の感情の渦に飲み込まれそうになっていると、タイミング良く朝吹くんが声をかけてくれた。


「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた。それより、朝吹くんはどんな願いを書いたの?」


朝吹くんは苦笑いを浮かべて頭に手を置いた。


「ちょっと聞かれたくなかったんだけど、まいいや。短冊見せてあげるよ。深月さん、こっち」


朝吹くんは私が飾った場所のちょうど真裏に私を案内すると、人差し指で自分の短冊を差した。

そこに書いてあったのは、"深月さんが笑顔で暮らせますように"だった。

私は口元を押さえた。

1年にたった1度、夜空に願いを馳せられる日に、そんなに親しくもない私のために願ってくれるなんて...。

心底朝吹くんは優しい人だ。

こんな良き日に偶然会って落ち込んでいる姿を見せてしまったことを申し訳なく思った。

だけど、心の片隅に日の光のようなほの温かい感情が宿っているのも確かだった。

私はその感情を言葉にしようか迷ったけれど、なんとなく伝えない方が損のような気がして口を開いた。


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