秘密に恋して~国民的スターから求愛されています~
沙月は一瞬戸惑うような素振りを見せたがすぐに首を振る。
俺はずっと彼女の傍にいた。だからそれが嘘だってことは何となくわかるよ。
何故言ってくれないのかそれが悔しかった。

俺は沙月の一番の理解者でありたいし、そうだと思っていた。
でも、違ったようだ。

彼女の背中に回す手の力を強める。

「明日、休みなんだ。どこか行こうよ」
「…いいよ。拓海も一人の時間ほしいよね。私はいいから拓海だけでも…―」
「いらないよ、そんなの。俺は沙月と一緒にいたい。俺、芸能界辞めるよ」

沙月の声が止まった。

ずっと考えていた。
彼女を守るにはそれしかない。ただ今すぐに契約解除ともいかない。
ちょうど今日、マネージャーにそれを話したところだった。
もちろん大反対をされた。

お世話になっている事務所を裏切ることになるが、それしか方法がない。


「ダメだよ!!」

急に大きな声を出して俺の鼓膜を揺らす彼女がぐっと俺の胸板に手を当て体を離す。
涙目で俺を見上げ、ダメだよ、と再度いう。

「そんなことしたら…思う壺だよ…」
「何が?」
「…いや、ううん。ごめん何でもない。でも私のために辞めないで。拓海の人生なのに私のせいでって思ったら耐えられない」
「…でも、俺は沙月を守れない。こうするしか」
「私は一人で大丈夫だよ。今まで拓海に甘えすぎていたから」

そう言って笑った彼女はぽろっと涙を溢した。
それはすぐに彼女の着ていたシャツを濡らして、跡を作る。

何かを決意したようなその目から俺は自分のそれを離せなかった。

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