【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

よくよく話を聞いてみれば、何と小早川さんの紹介で桃菜はボヤージュの店舗にアルバイトとして勤める事が決まったらしい。

きっと桃菜が小早川さんに強引に言い寄ったに違いない。
そしてその店舗はこのマンションから一番近い支店だ。

来週から私がお世話になる店舗でもある。  桃菜と離れる為に連絡を絶ったのに、結局は桃菜と離れられない運命にまた気持ちがズンと沈んでいく。

「そう……小早川さんにお礼言っとかないとね」

「まあ、でも桃菜碧人さんは苦手だし、嫌い」

意外な事が一つだけあるとすれば、桃菜がきっぱりと小早川さんを苦手で嫌いだと言った事だ。
桃菜が女性を苦手だという事は少なくはない。 けれど男性を苦手だという事は珍しい事だ。

仕事先の世話までしてもらったのに何を贅沢な事を言っている。と言いたくはなったが、珍しく顔をしかめていたのでそれ以上は言わなかった。

寧ろ伊織さん同様小早川さんだって十分素敵な男性である。 桃菜の事ならばぎゃーぎゃー騒ぐに違いないと思ったのだが、興味はないらしい。

それにしても頭が痛い。

せっかく最近は伊織さんと仲良くなり始めたと思った矢先にまさか桃菜がうちに転がり込んでくるなんて。

嫌な予感しかしない。 そして桃菜と居る時の私の嫌な予感は大抵当たってしまうのだった。

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