【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

背中に二人分の会話が突き刺さる。
嫌な予感はピークを迎えようとしていた。
振り返る勇気はなかった。石のように固まりその場から動く事さえ出来ない。

’伊織さんみたいな素敵な人なら、結婚もいいかも’ そう考えていた数分前の自分をぶん殴ってやりたい。

どこか他人行儀のようにこの結婚について話すとは感じていた。
そもそも自己紹介もされていなかった…!

「おい、碧人(アオト)俺にも珈琲。」

掠れたぶっきらぼうな声が頭の上降り注ぐ。
それでもまだ私はソファーの上から動けずにいた。

先程まで伊織さんだと思っていた男性が座っていたソファーに、寄りかかる様に頬杖をついて座った男性は
ブラウンがかった髪色と同じ、ブラウンの大きな瞳をしていた。
口をへの字に曲げて不機嫌そうに大きな瞳を細くしこちらをジッと見つめた。

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