【完】この愛を、まだ運命だとは甘えたくない

祖母のホームに行く事は既に決まっていたので、後で連絡をすると言ってしつこい桃菜を巻いた。

因みに市ヶ谷さんはほぼ毎日ホームに行って祖母に会いに行っているらしい。 けれど痴呆になっているのでどこまでこの状況を理解しているか定かではない。

私の事は顔を見てもいつも’はじめまして’と言う。 少しだけ切ないけれど、祖母の中の真凛は幼い子供なのだろう。


しかし今日伊織さんを連れて行くと、祖母は少女のような顔をして彼を’孝守さん’と呼んだ。

それだけ若い頃の市ヶ谷さんと伊織さんが似ているという事だろうか…。  伊織さんはそれを否定せずに祖母に話を合わせてくれた。ずっとにこにこ笑いながら祖母の話を聞いてくれて、嫌な顔は一つもしなかった。

それは私にとってもとても有難い事だった。


しかしホームからの帰り道も桃菜の事が片隅も頭から離れる事がなかった。
助けて欲しい、と言っていた。

一体何があったというのだろうか…。学生時代から桃菜は私によく助けを求めて来た。

ある時は深夜に家にゴキブリが出たというので呼び出された事もある。 毎度毎度助けにいく私も私だけれど。

どうしてこんなに気になってしまうのだろう。 縁を切るつもりで連絡を絶ったのだから放っておけばいいのに。

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