Forever Dreamer



「真弥、電話よ!」

「え? 誰から?」

 自分に電話をかけてくるような人はいないと思っていた真弥に、姉の美弥は耳元でそっとささやいた。

「坂本くん。声が聞きたいんですって」

「え? わ、分かった」

 そんなことがあった前日の夜。


『葉月、元気でやってるか? 留守番で保健の先生の手伝いしているんだってな。偉いじゃんか』

 真弥の頭の中に、昨日の電話がよみがえってきた。

 伸吾が真弥のために、旅館から電話をかけてくれた。

 正直何を話したか、詳しい内容は覚えていない。

 2,3言うなずいただけで、電話は切れてしまったけれども、真弥は満足だった。自分のことを憶えていてくれた人がいた。それが真弥には嬉しかった。

「ごめんね、一緒に行けなくて……」

 真弥はつぶやく。こんなに学校での留守番が辛かったのは初めてだった。行けなくて悔しいというのではない。

 こんなに一人が寂しいと思ったのはいつ以来だろう。

「真弥ちゃん、給食にしない?」

 保健室の扉が開いて、先生が顔を出した。

「はーい、すぐ行きます」

 立ち上がろうとしたとき、突然ふらふらとしてしまった。なぜか体がうまく動かない。

 突然その場にうずくまってしまった真弥に、先生は驚いて飛び出してきた。

「真弥ちゃん、しっかりしなさい」

「大丈夫……。急に力が入らなくなったみたいだから…」

 抱えられて、保健室の中に入り、ベットに座って息をつく。

 普段ならこんなに体が弱ってくるのは、もっと暑くなってきてからなのに。

「今日は、給食だけ食べてもう帰りなさい。そんな体じゃまた具合悪くなるだけだから」

「こんな体だものね……」

 ようやく立ち上がり、スカートに付いた砂を払う。

「でも、早退はこれ以上したくないし……」

「でも、もともとは自宅にいてもいいわけでしょう?」

「だって、昼間は家は誰もいないから……」

「そう、ご両親がどちらも働いていらっしゃるのね。じゃ、こっちにいた方がいいか」

 ようやくテーブルの上に給食のお盆を載せ、向かい合って食べはじめる。

 ぐずぐずしていると昼休みになって、保健室の中は騒がしくなる。

 一応真弥も保健委員という肩書きを持っているから、ケガをした子が来れば手当てをしている。

 でも、真弥が世話をするより、彼女が世話になってしまうことも多かったから、どっちがどっちなのか分からなくなってしまっていたけれど……。

「お姉ちゃんが帰りに寄ってくれるまで、ここにいます。今日は早く帰って来るって話だから……」

 真弥の様子を見て、先生はそれ以上、彼女に帰宅を勧めることはしなかった。

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