優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
恋心なんて、恐れ多くて抱けない。
それに壱哉さんは水和子お姉ちゃんと付き合っているって噂もあるし、将来はもしかしたらお兄さんになるかもしれないのだ。
お兄さん―――それでもいいかもしれない。
あんな素敵で頼りになるお兄さんがいる杏美(あずみ)ちゃんがうらやましい。
近くの女子トイレでストッキングをはいた。
ドジな私を予想して替えのストッキングを持ってきてよかった。
予想通りなのが悲しいけど。
誰か入ってきたみたいで、トイレのドアの向こうが騒がしくなった。

「ねえ、聞いた?尾鷹専務に秘書が付くらしいわよ」

「うそっ!ずっと秘書はいらないっておっしゃっていたのに」

尾鷹専務って確か壱哉さんのことだよね?

「私達、秘書室の中から選ばれないらしいけど」

「妹さんかもねー」

「あり得るわね」

「専務って広報部の呑海さんと付き合ってるんじゃないの?一緒にいるの見かけたって聞くし」

自分じゃないのにその名前を聞くとドキッとした。

「あの二人、お似合いよね」

「呑海さん、美人で仕事もできるし、感じのいい人だし、ケチのつけようがないわ」

さすが水和子お姉ちゃん。
評判がいいみたいだった。
外が静かになったのを見計らって、トイレから出て一階エントランスに行くと、新入社員と思われる人達が大勢いた。
入社式に間に合ってよかったあー。
泣きそうだったのも忘れて、今はあのカッコイイ壱哉さんを至近距離で見れたことを神様に感謝していた―――もうあの距離で見ることはないだろうなぁなんて、のんきに思いながら。

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