優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
「そ、そんな!渚生君はかっこいいし、活躍してるし、両親にしたら自慢の息子ですよ」

「そうかなあ?」

こくこくと首を縦に振った。
滅多に褒められない私としては驚きすぎて言葉が出てこなかった。

「ありがとう。日奈子ちゃん」

「い、いえ!」

ちょうど家に着き、『それじゃあ、次に買い物に行く時は声をかけて』と言って渚生君は家の中に入って行った。
今、自分がドラマの中にいる人みたいでモブからヒロインになったのかと錯覚してしまった。
しっかりして!私!
モブはモブにしかなれないんだからっ!
ヒロインっていうのは水和子お姉ちゃんや緋瞳お姉ちゃんみたいな存在をいうんだからね。
それにしてもカッコいいよね。
さすが、壱哉さんと双璧と称えられるだけある―――しばらくしてから、ハッと我に返った。
玄関先でぼっーとしてる場合じゃない。
洗濯をして夕飯の支度をしないと!
すぐにぼうっとしてしまうのは私の悪い癖だ。
今日の夕飯はオムライスと新玉ねぎとツナのサラダ、厚切りベーコンのスープ。
皆が帰ってくるのは遅いから、鍋とかはできない。
渚生君は私を偉いって言ったけど、そんなことない。
私が唯一できるのはこれくらいだから。
キラキラオーラを持つ人達とは違う。
こんな平凡で鈍臭い私はむしろ、ひっそり目立たずに生きているほうがいい。

「明日は辞令発表かあ。私の配属ってどこなのかな」

願わくば、神様!
水和子(みわこ)お姉ちゃんと離れた場所にしてくださいっ!
私にできることと言えば、心から祈ることしかできなかった。
明日からの平穏無事な生活を送るためにお姉ちゃんから離れることは私にとっては今一番の死活問題だったのだ―――
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