優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
しかも、女性の扱いにはなれていて、自然に腕を差しだし、席までエスコートする。
悪い気はしなかった。
席に着き、前菜のテリーヌを口にし、ワインを一口飲むとようやく安島さんは腹の中を明かした。

「俺と手を組まないか」

「手を?社長になったら、もうよろしいのでは?」

「目障りなんだよ。壱哉と一緒にいる女がな」

「私の妹のことでしょうか?」

「そうだ。社内で壱哉を庇う奴は全員、俺の敵だ」

安島さんが常務の時はコンプレックスを上手く隠していたけれど、社長になると隠しきれなくなったみたいね。
ことあるごとに壱哉と比べられているんでしょうね。
さしずめ、『実力からいけば、壱哉さんが社長だろう』『尾鷹専務でなければ、契約しない』とか?

「私は謹慎中ですし、子会社に行くことが決まっていますから、お力にはなれないかと」

「本社に置いてやろう。俺の駒になるならな」

駒?
この頭が悪そうな男の?
いいえ。
頭が悪い方が(ぎょ)しやすい。
そう―――私が上手く使えばいい。

「わかりました」

安島さんは私の返事に満足そうにうなずき、ワイングラスを差し出した。
グラスを鳴らして、お互い微笑みあった。
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