優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
そんなに表情は変わらないんだけど、卵焼きを食べた時はほんの少しだけいつも顔が優しくなるから、私にはわかった。
あまり表情のない壱哉さんだけど、笑うと可愛い。
年上の男の人に可愛いって失礼だけど……。

「壱哉さん。よかったら明日から私、壱哉さんのお弁当作ってきます。毎日、そんなお弁当じゃ体によくないですよ」

「悪いから」

「一人分くらい増えても大丈夫です」

五人分も六人分も同じ。

「私は壱哉さんの秘書ですから!」

キリッとした顔で私が言うと、壱哉さんが笑った。

「じゃあ、頼む」

「はい!」

秘書の仕事は担当役員の昼食の準備って、この机の中にあった秘書マニュアルに書いてあったし。
これでやっと私も秘書らしい仕事ができる。
任命されたからには全力で頑張る所存だった。

「明日の朝から迎えに行く」

「えっ?」

「日奈子は俺の秘書だろう?」

「あっ!そうですね」

あれ?秘書って迎えに来てもらうもの?
でも、秘書だから一緒に行動するのが普通なのかな。
朝、待たせないように準備しておこう。
一人、うなずいて気合いを入れた。
午後からはお茶をいれたり、マニュアルを読んだり、書類を綴って終わった。
業務終了時間になっても壱哉さんはまだ仕事をしていたけど、定時で帰っていいと言われて、私は先に帰ることができた。

「すごいなぁ、壱哉さん」

こんな私をうまく秘書として使えるなんて、凄すぎるよ……。
教え方も丁寧だし、怒らないし。
しかも、仕事する姿はカッコいいし。
『壱哉さん、素敵過ぎるよ―――!』
心の中で叫んだのだった。
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