優秀な姉よりどんくさい私の方が好きだなんてありえません!
壱哉には直接会ってお願いしておきたいからね、と言って。
今日は確かイベントの最終日だったはずだ。
日奈子さんがやったイベントは大成功したと壱哉さんはまるで自分のことのように喜んで報告してきたあげく、隠し撮りと思われる日奈子さんがイベントで頑張る姿を私に送ってきた。
壱哉さんがついているのならと思い、こちらは別行動をしていた。
株主総会まではあと少し。
色々と陰で動く必要があった。
けれど、週刊誌が発売されてしまった今となってはしばらくおとなしくしているしかないだろう。
プライベートで迷惑をかけることが、申し訳ない。

「そんなに落ち込まないでよ」

運転しながら、私を横目で見て渚生は笑った。
変装なのか、おしゃれなのかわからないけれど、メガネもよく似あっている。
イベント会場に着いて車をとめると渚生はすぐに降りずにそっと指に髪を絡ませた。

「しばらく会えないけど」

「そうですね」

顔が近い―――キス?
目を閉じると指になにか触れた。
目を開けて指を見ると銀色の指輪がはめられていた。
これは―――同じ指輪が渚生の指にもある。
聞かずとも何を意味しているのか、分かった。

< 293 / 302 >

この作品をシェア

pagetop