劇薬博士の溺愛処方

 だから同じ薬剤師でも初々しい三葉は愛らしくて、誰にも渡したくなかった。けれどその見えない拘束が、彼女を苦しめていたのかもしれない。
 まさか転職までして距離をおこうとしていたとは、考えもしなかったのだ。

 ――でも、まだ望みはある。携帯の番号は変えてないし、メールをすればそっけなくても返事をくれる。別れようとまでは言われていないのだ。

 三葉が琉の前から姿を消して以来、アッチの方もご無沙汰だ。風俗で抜くことも考えたが、彼女じゃないとヤる気になれない。彼女の姿を思い浮かべてマスターベーションしようにも勃たなくなってしまった。なぜだ。俺はこんなにも彼女を抱きたい気持ちで溢れているのに!

 そんなときだ、生気のない琉を見かねて古くから病院にいる薬剤師が「日下部さんなら東京の叔父夫婦の薬局で働くって言ってましたよ」とこっそり教えてくれたのは。


   * * *


「職場で嫌がらせを受けてた、ってどうして教えてくれなかったんだ」
「だって……琉先生に、迷惑かけたくな……あっ」
「そのうえ転職先で男たちに精力剤を売りつけてるなんて……見つけた瞬間、頭に血が上ってしまったよ」
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