白衣とブラックチョコレート
スタッフの面談期間が終わってすぐに、真理亜が退職するらしいという噂が病棟内に飛び交った。

中途半端な時期の突然の退職に皆首を傾げながらも、真理亜という大きな穴が空くことを予期してかどことなく忙しない雰囲気が漂っていた。

「何で急に辞めるんだろうね?」

同僚達にそんな話題を振られても、雛子は曖昧に笑って同じように首を傾げて見せた。






「ほら見て桜井さん。いつの間にかいつも通り」

一学年先輩の原と水嶋が、雛子をつつきながら恭平を見遣り飽きれている。

誕生日を過ぎてからというもの、恭平は平素の様子へとすっかり戻っていた。

「……」

しかし誕生日翌日の出勤で、あの日以来久しぶりに甘い匂いをさせてやってきたことを知っているのは雛子だけかもしれない。

すなわち、その日も二人は真理亜の部屋で朝まで一緒に過ごしたということになる。

(何もないわけ……ないよね……)

もちろん職場で恋人らしい雰囲気など出すはずもないが、いくら同期とはいえ男女二人きりで泊まって何もないはずがない。

(もし私が悠貴と二人きりで泊まることになったら……)

雛子は想像する。

「いや……何もない、な……?」

自分に置き換えてみるものの、相手が悠貴ではイマイチ色っぽいハプニングは有り得そうにない。

そうなると恭平と真理亜も一概に怪しいとは言えず、雛子の頭の中では疑惑が堂々巡りしていた。

幸い、あの一件以来恭平とは勤務がすれ違っていたし、勤務交代時に出会ってもお互い何となく気まずくて話もしていなかった。










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