白衣とブラックチョコレート
目を開ける。

いつもの白い天井と、似ているけど、何か違う。

覗き込む二人の女性。

(お母さん……)

目に涙をたくさん溜めた母親が、百合の手を握っていた。

「ああっ、良かったわ、目が覚めたのねっ!」

そう言って、母親はまたポロポロと涙を零した。

「お父さんに電話してくるわっ……!」

急いでどこかへ行く母親を目だけで追う。

先程より随分マシだが、今もまだ呼吸が苦しい。

(やり過ぎちゃった……)

反省はしている。でも母親のあんな顔が見れたのだから、後悔はない。

(本当に……?)

「良かったわ、目が覚めて」

もう一人の女性が、鈴の音のような可憐な声でそう告げた。

「清瀬、さん……」

声を出すと、また一段と苦しくなる。口に取り付けられた酸素マスクの中で、百合は必死に呼吸をする。

「ごめんなさい、私……」

気が付くと、勝手に謝罪の言葉が口をついた。

(後悔してないなんて、嘘だなぁ……)

死ななくて良かった。そう思う自分が、何だか情けない。

「生きていてくれて良かった……」

そう言って、真理亜は百合をそっと抱き締めた。

あたたかい。

身体も、心も、何だかとても心地良い感覚に満たされた。

ああ、自分が求めていたのはこれかもしれない、百合はそう思った。



ずっとずっと、妹に取られていた母親。病気になった事で、自分だけに気を引きたかった。




「私も同じよ、あなたとおんなじ」


真理亜は百合を抱き締めたまま、まるで自分に言い聞かせるかのように呟いた。


「自分も他人も大切にするの。あなたもよ、もっと自分を愛してあげて」


真理亜の腕に力が篭もる。


「だってあなたは、ちゃんと愛されてるんだから」










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