愛は愛より愛し

一本は私が手にとったもの。もう一本は世名が持ってたもの。

あとは、ざる蕎麦。
そして、返したはずの名刺。

「……これ、何?」
「端末にみえるけど」
「誰の?」
「え、閑野のじゃないの?」

目を丸くする菱元と同じ顔を私もしているだろう。しかも、私のじゃなければ思い当たるのは一人しかいない。

黒いスマホは私用のものなのか、業務用のものなのか。

名刺を裏返す。書かれた番号。

「……私、通報すべきだったのは」

頭を抱えた私の斜向かいで、菱元は中華丼を咀嚼していた。
私も優雅にざる蕎麦を啜りたかった。

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