【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 わたし達は何もせずに、ただ寄り添っていた。
 人間の姿を解き、大きな白銀の狼に変化したヴォルフのおなかにもたれかかり、ひんやりとした夜の空気を感じる。
 ヴォルフの体のあたたかさ、匂い、美しい毛並みにつつまれる幸福感を、一生覚えておきたい。

「ヴォルフ、空が見たい」

 国を出てから、ヴォルフの胸に抱かれて何度も空を見上げた。
 夕焼け、夜空、夜明けの光。
 すべてが美しく、優しく、幸せだった。

「……わたし達の旅の終わりに」

 ヴォルフはわたしを背中にのせて、ゆっくりと歩いてくれた。
 滝とは反対側に別の出入口があるようで、しばらく行くと外に出られた。
 岩肌が剥き出しのやや高い崖の上のようだ。滝の轟音は酷く遠く、足もとの森はひっそりと暗かった。
 薄明るい夜空を見上げる。

「月がない?」

 月だと思っていた光の源は、天球を彩る星々だった。

「星月夜……。女神様、月のない夜なのに来てくださったのね」

 女神レクトマリアは、月の化身。
 月が満ちるとその神力が強まり、月が隠れると弱まるという。
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