【書籍化&コミカライズ】身代わり聖女の初夜権~国外追放されたわたし、なぜかもふもふの聖獣様に溺愛されています~
 いつからだったろう。
「妹と違って陰気な子」だと噂が立ち、家族からは冷たくあしらわれ、ご近所さんや友達にも遠巻きにされるようになってしまった。
 相手にしてくれるのは、わたしをからかってくるやんちゃ坊主達だけだ。

 こんなわたしみたいな取り柄のない人間が、綺麗な狼さんのおなかの足しになるのなら。

「狼さん。お願い、食べるならひと思いにかじってね……」
「クゥン?」

 そっと目を閉じて、待つ。

 その時、一瞬、大きな獣の重みが消えたような気がした。
 そして、まるで大人の男の人みたいな、押し殺した低い声が耳に吹きこまれる。

「……ヴォルフだ」

 柔らかい感触が頬をたどって、唇にふれる。
 狼とは違う小さな舌に、ちろりと舐められた気がした。

「……え?」

 驚いて目を見開くと、そこにはやっぱり白い狼の優しげな金色の瞳があった。

「ヴォルフ……って言った? 誰かいるの?」

 不自由な体勢で見回しても誰もいない。
 不思議な狼が、わたしの頬をまた厚い舌で舐めまわした。




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