今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
部屋を出る前に、叶はあたしをソファに座らせて言った。

「僕に君をくれないか」
 
目の前に跪いた彼があたしを見上げる。穏やかに凪いだ眼差し。

「・・・スズは僕に逆らえなくて仕方なくでいい。君が思ってるよりずっと酷い事を言える人間だから、僕は」

儚く笑う。

叶の言葉をどこか遠くに聴いていた。現実味があるようでないようで。ここに居る自分は明日さえ曖昧。背徳すら畏れずに叶を選んだ自分が。・・・自分が一番驚いている。

子供の頃からどっちかと言うと、先生には好かれる真面目っ子だったんだから。家族の顔が浮かんだ。友達の面影も幾人か過ぎって。でもどうしてか叶を置いてゆけない。

揺るぎなく見えたのに貴方の眸が揺れたから。激情のままにあたしを抱いたから。一番人間らしかった貴方をとてもとても、愛おしいと思ったから。

だから。

「・・・全部あげる。叶に」

ほら。また貴方の眸が微かに揺れた。

「僕が奪うんだよ君を」

両手を伸ばしあたしの頬を包み込む。

「スズは僕に浚われた、ただの人形だ。・・・憶えておきなさい」 




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