今宵も甘く咲く ~愛蜜の贄人形~
ようやく車内アナウンスが駅の到着を告げた。いそいそと手荷物を準備してホームに降り立つ。

“駅の公園口ロータリーで待っているから” 

だいたいの帰宅時間をメッセージで送ったら、そう返信されていた。自然と足早になる。

お正月休みで通勤客が少ないせいだろう。ロータリーはそれほどの混雑でもなく、すぐに黒のハリアーが目に留まる。駆け寄って行くと、運転席から叶が降りてきてくれた。

「お帰り」

「・・・ただいま」

抱きつきたい衝動に駆られたけれど、塞がった両手ではそれも無理。見上げれば、甘い微笑みで額にキスが落とされた。

走り出した車の中では手を固く繋いで、片手運転の叶が言う。

「いつでも好きな時に帰っていいよ。ご両親だって喜ぶ」

それが思いやりなのはよく解っていても、ちょっとどうかなと思う。だって。

「・・・禁断症状が出るから無理」

「何の?」

クスリと横目の笑いが返って。・・・もう。分かって言ってるでしょう。

「叶に会いたい病」

はにかみながら。顔が熱くなって目が泳ぎまくる。あたしってこういうキャラじゃないのに。

「・・・そういう嬉しいことをいう子は、どうしてあげようかな」

赤信号で停まった交差点。彼の腕が伸びてあたしの頭の後ろをやんわり押さえ、少し自分に引き寄せて最初から深い口吻。何時間ぶり?随分と永い時間こうしてなかった気がして。

どうしよう。禁断じゃなくて中毒みたい、・・・これじゃ。
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