気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

彼女の父親に「お父さん」って言うと怒られるよ


 しばらく、俺とひなたはリビングでたくさんの犬たちと戯れていた。
 飼い主以外の人間が、この家に現れたのは、初めてらしく。
 最初は警戒していたが、俺とひなたが雑談する姿を見て、安心したようで。
 10分後には、膝の上に何匹も座り込み、寝だす犬までいやがる。
 ま、可愛いから許すが。


 そうこうしているうち、廊下の奥から何やら物音が聞こえた。
 誰かが家に入ってきたようだ。

 初老の男が一人、俺の前に立つ。
 黒い髪は全てポマードでオールバックにしており、太い眉と口ひげが特徴的だ。
 着ているスーツも恐らく、ブランド物。
 身なりからして、相当なやり手のビジネスマンと言ったところか。

 鋭い目つきで、上から俺を睨んでいる。
 恐怖から敬語で挨拶してしまう。
「こ、こんにちは……お邪魔しています」
「君はひなたの、なんだね?」

 ドスの聞いた低い声で、問われた。

「え……あ、あの学校の……友達ですが?」
 俺がそう答えると、「フン」と言ってリビングから去って行った。

 謎のおっさんに脅える俺を見て、隣りにいたひなたが、クスクス笑う。

「センパイ。なに緊張しているんですか?」
「え……あの人、怖すぎだろ。誰だ?」
「私のパパですよ♪」
「マジか……お前のお父さんって、ヤクザじゃないよな? インテリ系の」
 ひなたは腹を抱えて笑う。
「ハッハハ! 違いますよぉ。ただの社長ですって!」
「……」

 こいつ、今ただの社長って言ったよな?
 ただの社長が、こんな高級マンションに住めるのか。
 めっちゃ金持ちなんだろな。

  ※

 今日が日曜日だから、普段忙しい両親は自宅に帰ってきたらしく。
 昼ご飯を頂くことになった。

 4人掛けのテーブルに、俺とひなたは並んで座る。
 奥のシステムキッチンで、ひなたママが一生懸命、料理を作っていた。
 
 テーブルに次々と並べられる豪華なメニュー。

 カルパッチョ、パスタにピッツァ。それから、アクアパッツァ。
 と横文字をスラスラと紹介してくれるひなた。
 言っていて、舌嚙まないの?

 俺が自宅へ遊びに来たことが、よっぽど嬉しかったようで、ひなたは終始、ご機嫌だった。

「新宮センパイ! いっぱい、食べて行ってくださいね♪」
「おお……でも、なんだか悪いな。せっかくの家族団らんな時間を奪っているようで……」
 と視線を前に向ける。
 さっきから、ずっと熱いまなざしを向けられているからな……。
 ひなたパパだ。
 スーツから、ルームウェアに着替えたとはいえ、ダンディな顔つきは変わらない。
 ギロッと鋭い目つきで、俺の顔を睨んでいる。
 テーブルの上に肘をつき、指を組む。

「……」

 黙って、俺とひなたの会話を聞いているようだ。
 超、怖い。
 あれじゃないか? 初めて娘が男を自宅に連れてきたので、怒っている典型的なお父さんの。

  ※

「センパ~イ、パスタのソースが口についてますよぉ~」
「へ?」
「もう~ お子ちゃまなんだからぁ」
 言いながらも、嬉しそうにハンカチで俺の口もとを拭いてくれる神対応。
 しかし、目の前にいるパパさんは別だ。
 眉間に皺を寄せ、身体をブルブルと震わせている。
 手に持っていたフォークとナイフがテーブルに落ちるほどだ。

 ママさんが俺とひなたのやり取りを見て、優しく微笑む。

「あらぁ~ ひなたがこんな女の子らしいことするなんてねぇ。よっぽど新宮くんのことが気になるのねぇ、ふふふ。ねぇ、あなた」
 と話をパパさんに振る。
「……」
 何も答えてくれない。

 その手に持っているナイフで、俺は刺されるの?

「もう! ママぁ~ やめてよぉ! 私だって、女の子なんだからぁ!」
 頬を膨らませて、恥じらうひなた。
 だが、そんなことよりも、顔面を真っ赤にして、興奮気味のパパさんが気になる。

「ふぅ……ふぅ……」

 絶対、怒っているだろ。

 気がつけば、恋人同士ってぐらい、俺とパパは見つめあっていた。
 正しく表現するのなら、恐怖で目が離せないだけなのだが。

「あ、あの……パパさん?」
 俺がそう言うと、何を思ったのか。
 テーブルの上にあったグラスを手に持ち、「乾杯しないか」と言う。
 その提案に乗っかって、俺もオレンジジュースが入ったグラスを宙に掲げる。

 しかし、グラスが重なることはなく。
 代わりに紫の液体が、俺の顔面へと直撃。
 香りからして、アルコール。
 ワインだな。

「おっと……すまんな。新宮くん」
 謝ってはいるが、絶対わざとだろ。
 クソ。お気に入りのタケちゃんTシャツが、ワインで汚れちまった。

 すぐにひなたとママさんが、タオルを持ってきたりしてくれたが。
 ワインをぶっかけた本人は微動だにせず、じっと俺の汚れた顔を睨んでいた。

「新宮くん。すまないことをしたね。その格好じゃ帰ることはできないだろう。洗濯してあげるから、お風呂に入りなさい。私とね……」
「えぇ……」
 俺、風呂の中に沈められるのかな。
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