気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!

暑いとロンスカで、寒いとミニスカで……(困惑)


 夕方と言っても、ちゃんと時刻は指定されていなかった。
 しかし、少なくとも16時ごろには、博多駅でデートをするんだろう……。
 と思った俺は、昼食を取った後、早めに電車へ乗って、博多に向かった。

 博多口を出た瞬間から、人でごった返していた。
 こんなにもイブの博多駅は、大勢の人で賑わっているとは……。
 万年童貞だった俺には、見たことのない光景だ。

 やはり若者が多く感じる。
 特にカップル。ていうか、カップルしかいねーじゃん!
 クソがっ! イチャイチャしやがって。
 こいつら、あれじゃないか?
 もう事後なんじゃないの……。
 だって、こんな寒い日だってのに、彼女たちはみんなマイクロミニのスカートだぜ。

 意味がわからん。
 お腹はちゃんと、暖めておけよ。

 クリスマス会場でもある駅前広場は、いつもと違い、そこだけ幻想的な空間と化していた。
 右手には、たくさんのイルミネーションがキラキラと輝いている。
 家族連れやカップルで賑わっており、早くも写真撮影で盛り上がっていた。
 
 反対側の左手に、巨大なツリーが飾られており。
 そこを中心にクリスマス会場が、設けられている。

 様々な屋台が並んでおり、主に海外の伝統工芸品を販売している。
 クリスマスにまつわる物。キャンドルやアートグラス。アクセサリーに、鹿の角まで……。

 本当ならすぐに、いつもの待ち合わせ場所である、黒田節の像へ向かいたいところだが。
 特設のフードコートで、像が封鎖されていた。

 参ったな……と思い、とりあえず、人ごみを搔き分けて、像の近くまで辿りついた。
 近づけないから、仕方ないと思い。マリアがここに来るのを待つ。

 しかし、こんなに人が多いのに、像の前で待ち合わせなんて……できるのか?
 俺たちがやっていることって、昭和なんじゃないの。

 ~30分後~

 目の前で美味そうに、チキンを頬張るカップルを見て、苛立ちを隠せずにいた。

「クソ。あ~、寒いし腹減ったなぁ……」

 それにしても、マリアのやつ。
 遅いな……ちょっと連絡してみるか。

 ダッフルコートのポケットから、スマホを取り出した瞬間、着信音が流れ出す。
 相手は、マリア。

「もしもし?」
『タクト。ごめんなさい。もう博多駅にいるのよね?』
「ああ、マリア。お前、今どこにいるんだ?」
『私も博多にいるのよ……でも、ちょっとトラブルがあってね』
「ん?」

 マリアも博多にいるのに、駅にいないだと?
 意味が分からん。
 渋滞とかかな?

『前に言ったと思うけど、私ってアメリカで、ファッションブランドを立ち上げたじゃない?』
「ああ……そう言えば、そんなこと言ってたな」
『それで日本にも支店ていうか、オンラインストアをオープンしたり、色々と事業を拡大しようと思ってね。とりあえず福岡に事務所を借りたのよ』
「ほう」
『博多って何かと便利だから、小さなビルの一室を借りたのだけど。最近、嫌がらせが多くてね』
「嫌がらせ? どんなことだ?」
『かなり悪質ね。頼んでもないピザを30人分、頼まれたり。高級寿司を数十万円も持って来られたり……たまに、火事の誤報で消防車や救急車まで』
 ストーカーってレベルじゃない……犯罪じゃん。
 しかし、この犯行。誰かに似ているような。
 
「マリア。お前、その事務所ってホームページとかに、住所を記載しているか?」
『もちろんよ。会社だもの』
「……」

 なんかすごく嫌な予感がしてきた。

「それで、マリア。なぜ博多駅に、まだ来られないんだ?」
『本当にごめんなさい、タクト。私と初めてのイブなのに……』
「え?」
『両親とまだホテル暮らしなんだけど。私だけ事務所で缶詰したりするのよ。それで昨日から徹夜して、寝落ちしたら……事務所のドアが、強力な接着剤でガチガチに固められて、開けられないの』
「あ……」
 そんな悪質なストーカーは、1人しか思い浮かばない。

『今、業者さんに開けられるように、頼んでいるんだけど。6時間以上はかかるそうよ。ドアの鍵穴は接着剤で埋められたし、ドアの隙間も全て埋められて、ビクともしないんだって』
「そ、そうなんだ……」
『おまけにね、ビルの廊下に段ボールを山のように、置き配されてね。業者さんも通りづらいの、もう嫌になっちゃうわ!』
「こ、怖いな……」
 そこまでやるとはね。
 
『はぁ……タクトとの、イブデートが楽しみだったのに。ごめんなさいね、悪いけど今日は帰ってくれるかしら? 埋め合わせは必ずするから、ね?』
「ああ。マリア、あんまり気を落とさないでくれ……またいつか取材しよう」
『ありがと、優しいのね。タクトって。好きよ、チュ♪』
「……」

 いや、マリアが寛大すぎるんだよ。
 普通に通報レベルなのに……。
 しかし、彼女を八方塞がりにしたということは。
 犯人は恐らく、この近くにいるんじゃないか?

 恐怖からスマホを持つ手が、ガタガタ震え始める。

「まさか、アン……」

 そう言いかけた瞬間、視界が一気にブラックアウトする。
 冷たいが柔らかい。
 この感触、なんか覚えがあるんだけど。

「だーれだ?」

 この甲高い声の持ち主は……。

「あの、もしかして……アンナさんですか?」
「ブブーっ! でも、おしいかな☆」

 そう言うとようやく顔から、手を離してくれた。
 振り返れば、サンタさんの仮面を被った女の子が1人、立っている。

「正解は、サンタアンナでしたぁ~☆」
「……」

 ぎゃあああ!
 やっぱり、いたぁ~!
 昨日の余裕ぷりは、これだったのか!?
 最初から、マリアとのデートを潰すつもりでいたんだ。

 仮面を外すと、特に悪びれることもなく、ニコニコ微笑むアンナの姿が見えた。

「タッくん☆ こんなところで、何しているの?」
 あんたこそ、なにしているんだよ!
「いや……マリアと取材だったんだけどさ。ダメになって」
「そうなんだぁ~ きっとマリアちゃんは悪い子さんだから、サンタさんから、天罰を食らったんだよ☆」
「サンタさんが……?」

 あなたがしたんでしょ。全部……。
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