気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
第四十八章 年越し男の娘

コミケが忙しくて、おせちはありません……。


 時が流れるのも早くて……今年、2020年も終わりを迎える。
 今日は、12月31日。大晦日だ。

 クリスマス・イブをアンナと仲良く過ごし、学校は冬休みで、仕事も無い。
 毎日家の中で、だらだらと過ごしていた。

 だが、母さんだけは何時になく、忙しそうだ。
 母さんが経営している、美容院のせいではない。
 もう年末だから、お店は休み。
 プライベートなことだ。

 俺にとって、その姿は毎年恒例のことだが……。
 推しのサークルの情報を、インターネットで仕入れ。
 卑猥な薄い本を、同人販売サイトで大量に予約。

 これだけでも、数十万円は溶かしている。
 しかし、母さんのBLに対する情熱は、とどまることがなく。

 推してなくても、新規のサークルや同人作家を漁りまくるのだ。
 新たな芽は潰す。のではなく、愛でる。
 これが母さんのモットーだ。

 年末年始に、美容院を休むのは、家族といるためではない。
 同人誌を漁るために、店を閉めるのだ……。


 リビングでノートパソコンをカチカチといじる母さん。
 眼鏡を光らせ、笑みを浮かべている。

「ふふふっ……今年の冬も期待のルーキーちゃんがいっぱいね。ポチっておくわ♪」

 俺はただコーヒーのおかわりを、マグカップへ注ぎに来たのだが。
 嫌なものを見てしまった。
 相変わらず、目がガンぎまっていて、麻薬中毒者のよう。
 恐ろしい。
 きっと徹夜で、BLを漁っているからだろう。

 こういう時の母さんは怖いので、声はかけず。コーヒーポットからマグカップに注ぎ、黙って立ち去る。

 
 自室に戻り、机の上にマグカップを置く。
 机の上に置いているモニターを、眺める。
 今年はアホみたいに、写真や動画を撮ったから、フォルダーを分けるのに苦労する。
 まあ主に、アンナのものだが。

 しかし、1枚だけ例外がある。

 それは……この前、彼に頼んで、学校内で撮ったものだ。
 廊下の壁にもたれ掛かり、こちらへ潤んだ瞳を向ける金髪の少年。
 古賀 ミハイル。

 たった1枚しか、撮れなかったが……。
 俺は時々、この写真をクリックしてしまう。

 画像を拡大し、彼の美しいエメラルドグリーンへ吸い込まれそうになる。
 アンナの写真を眺める時よりも、なぜか恥ずかしい。
 
 妹のかなでは、現在、受験勉強による疲労から、二段ベッドの下で爆睡中。
 今なら、人の視線を気にせず、彼を眺めることが出来る。
 
 なぜだろう……。
 この写真を眺めていると、すごく落ち着く。
 あいつが俺の隣りで、笑っているような……。


 男が野郎の写真をずっと眺めているなんて、気持ち悪いよな。
 でも、かれこれ2時間も、モニターに映るミハイルを見つめていた。

 その時だった。
 机に置いていたスマホが振動で、カタカタと音を上げる。
 思わず、ビクついてしまう。

 着信名は、先ほどまで見つめ合っていた相手だ。

「もしもし?」
『あっ、タクト☆ 今なにかしてた?』
 彼の問いに、悪意は感じないが。
 今もモニター越しに映る彼を見つめているため、罪悪感みたいなものを感じる。

「べ、別に……何もしてないぞ?」
『そうなんだ☆ あのさ、後で真島(まじま)に行ってもいいかな?』
「え? いいけど、どうしてだ?」
『あのね、今お正月の料理を作ってるの☆ お雑煮とか、おせち料理とか』
「ほう。大変だな」
『毎年やっていることだから、大丈夫だよ☆ タクトん家はおせち料理、お母さんが作んないの?』
 もちろん、この質問も悪意はない。
 我が家が逸脱しているから、こんな世間話も出来ないだけだ。

「母さんはおせちとか、作らないよ。昔は作っていたんだがな……今は同人サイト巡りで、それどころじゃないんだ」
 言っていて、めっちゃ恥ずかしい!
『ふ~ん。じゃあ、オレが作ったのを、持って行っても良いよね?』
「へ?」
『夕方ぐらいにそっちへ持って行くから☆』
「いや……それは悪いよ」
 断ろうとしたが、ミハイルに「大丈夫だよ」と笑われた。

『それよりさ、タクトってお雑煮に“かつお菜”は、入れるタイプ?』
「か、かつお?」

 お雑煮に、かつおだと……。
 かつお節か、それとも、カツオのたたきか。
 う~む。なぜお雑煮に入れるんだ? わからん。

『かつお菜だよ☆ 福岡なら入れる家が多いでしょ?』
「へ? かつお、な? 初耳だ、知らん」
『なんで知らないの!? 福岡に住んでいるなら、タクトも知っておきなよ!』
 めっちゃ怒られた。
 意味が分からん。
「すまん。母さんが10年以上、お雑煮とか作らないから、覚えていないんだ。とりあえず、ミハイルが美味いと思うなら、入れてくれ」
 俺がそう言うと、彼はすごく嬉しそうだった。
『ホント!? じゃあ、入れておくね☆ 全部作ったら、また連絡するよ☆』
「おう……」

 通話を終了した後も、しばらく俺の脳内は、カツオでいっぱいだった。
 餅とカツオの刺身を挟んで、汁にぶち込むのだろうか?

 分からん……。
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