気になるあの子はヤンキー(♂)だが、女装するとめっちゃタイプでグイグイくる!!!
第五十七章 男の娘と結納

結婚前なので、ダメです。


「ぐすんっ……タクト。オレ、我慢したよ。マリアがかわいそうだったから……たくさん我慢したんだよっ!」
 そう言って、緑の瞳に涙を浮かべるミハイル。
 俺は彼の肩に優しく触れ、慰める。
「ああ、分かっている。よく我慢してくれた、ありがとう。ミハイル」
 そう言うと、ミハイルの身体を力いっぱい抱きしめる。
 安心したのか、その場で泣き叫んでしまう。
「うわぁん!」
「……」
 
 罪悪感を感じた俺は、黙ってミハイルを抱きしめることしか、出来なかった。

  ※

 しばらくして、落ち着きを取り戻したミハイルが、あることに気がつく。

「くんくん……マリアの匂いがする」
「え? 匂い?」
「オレには分かるもん! タクトのTシャツに、マリアの香りがこびりついているよっ! 嫌だっ!」
 そんなことを言われてもね。
 ファ●リーズでも、かけろってか?

「そりゃ、マリアも人間だから、生活する上で石鹸や服の洗剤とか使うだろ? すぐに消えるさ」
 しかしミハイルは、納得してくれない。
 毎度のことだが、こう言うのさ。

「イヤだっ! タクトの汚れはしっかり落とすのっ!」

 また始まったか……。
 だが、ここで彼の行動を制止すれば、もっと面倒なことになる。
 とりあえず、ミハイルのやりたいようにさせよう。
 マリアとのハグも我慢してくれたし。

 ~10分後~

 ミハイルに連れられ、俺は近くにあったソファーで、仰向けに寝かせられた。
 そして、彼が「じっとしていて」と言うので、黙って待機していると。

「よいしょ! よいしょ!」

 目の前をミハイルが上下に行ったり来たり……。
 俺とピッタリ身体を密着させて。

 お互い、服を着ているとはいえ、今は真夏だ。
 彼は露出の高いタンクトップにショートパンツ。
 ミハイルの白い肌が、こすりつけられる。

「……」

 やられている俺からすれば、沈黙しか選択肢は無かった。
 なぜなら、少しでも理性を失えば、暴走しかねないから。
 特に股間が。

「まだ、消えないね。もっとオレの身体をくっつければ、消えるかな? よいしょ」
「いや……これ以上は、ちょっとな」
「え? なんで?」

 目を丸くして、自身の膝を俺の股間に押しつけるミハイル。

「ひぐっ!?」

 いかん……このままでは、本当に彼を襲ってしまいそうだ。
 純朴なミハイルは、知らないでやっているのだろうが。

「ねぇねぇ、タクト。前から思っていたんだけどさ……たまに、タクトってお股が大きくなってぇ。すっごく熱くなるの、なんでなの?」
 と首を傾げるミハイル。

 悪気は一切、無い。
 姉のヴィッキーちゃんによって、彼は洗脳されているからだ。
 だが、そろそろ教えてやってもいいか。

「そ、それはだな……男なら誰しも起こる現象だ」
「えぇ!? そうなの? でも、オレは起きないよ?」
 どんだけ、純朴なんだよ!
「まあ……人それぞれ、成長と共にだな」
「ふぅーん、じゃあさ。この大きいお股ってなんていう名前?」

 ド直球な質問に、俺も困惑してしまう。
 さすがに親代わりでもある、ヴィッキーちゃんの教育方針を俺が変えてはならない。

「そ、それはだな……。『熱いパトス』的なナニか、というものだ」
 逃げちゃダメだからね。
「へぇ~ じゃあさ、すごく暖かいから、今からオレが手で触ってもいいの?」
 ファッ!?

「絶対にダメだっ!」
 そんなことをされたら、俺が暴発してしまう……。
 しかし、ミハイルは特に悪びれることなく、首をかしげる。
「なんでなの?」
「とにかく、ダメなものはダメなんだっ!」

 ソファーの上で、俺たちがイチャついていると。
 何やら辺りが騒がしい。

「お義母さん。あれ、今話題のゲイカップルじゃないですか?」
「本当ですね、腐美子(ふみこ)さん……最近、枯れていたけど、私も燃えてきたわぁ」
「しゅご~い! ほんとうに男の子どうしで、やってるぅ~!」
 
 なんだ? あの女性陣は。
 眼鏡をかけた地味な三世代の女子たちが、こちらを眺めている。
 もしかして、例の動画で俺たちを知っているのか?

 しかし、俺の予想は大きく外れる。
 その親子たちが見ていたのは、天井に吊るされたテレビ。
 流されている映像は、全国放送の報道番組。

『えぇ~ 繰り返し、お伝えしております……今、ネット上で人気の、この動画ですが。一部、過激な内容も含まれておりますので。小さなお子様とご覧になっている方は、気をつけてご覧になってください』

 とアナウンサーが、注意したあと映し出されたのは、博多駅の中央広場。
 一人の青年が、金髪の少女に叫ぶ。

『好きだ、ミハイル』
『オレもタクトのことが、大好きだよ☆』
『じゃあ……キスしてもいいか?』

 改めて見返すと、超恥ずかしいな。
 ミハイルも報道されている映像を見て、固まってしまう。

『ぶちゅ……じゅぱじゅぱ、レロレロレロ!』

 という映像が、10分間も全国で放送されていた。
 なんてこった!

 映像が切り替わり、アナウンサーが原稿を読み上げる。

『この……同性愛者の人々による告白動画ですが、波紋を呼んでおります。あまりにも過激な内容だと、視聴者の方々から、多数のクレームが届く一方で。この二人を応援されている方もいます。こちらをどうぞ!』

 どうやら、テレビ局のスタッフが街角でインタビューを行ったようだ。
 色んな人々がコメントを寄せている。

 学ランの制服を着ている、男子高校生が叫ぶ。

『お、俺は! あの二人をバカにする奴らは、マジで許さねぇよ!』

 ん? どこかで見たことのある少年だ。
 少年は鼻息を荒くして、熱く語る。

『だってさ、目の前で見ていたんだぜ! 俺、あの告白を見て勇気をもらえたんだ……。想いを寄せていた、お兄ちゃんと両想いになれたんだ!』

 あの時のブラコン君か。
 マジで、結ばれちゃったの?

『誰だって、人を好きになる権利はある! それを教えてくれたのが、あの二人だ! 俺はあいつらを応援してるよっ! 大好きなお兄ちゃんと一緒に!』
 と叫ぶ少年。
 そこへ眼鏡をかけた青年が現れ、少年の肩に手を回す。
『こらこら、あまり人前で僕たちのことを言うんじゃないよ……』
 坊ちゃんヘアーで優しそうに見える。
『だって、お兄ちゃんさ! 同性愛をバカにするのはダメだろ?』
『フフフ……そうだね。あの子たちがいなければ、僕たちは結ばれなかったのだから』
『お兄ちゃん……』

 俺たちのことを無視して、お互い見つめ合う。
 なんかキスしそうな雰囲気。
 てか、この二人はダメな恋愛だろ……。

 アナウンサーが言うには、例の動画は全世界でバズりまくり、現在では1千万回以上も再生されているらしい。
 そのため、各テレビ局でも取り扱うようになった。
 全国放送だけではなく、ローカル放送でもだ。

 ただ一部の地域では、内容が内容なだけに物議をかもしているのだとか?
 しかし、そっち界隈の人々や腐女子たちが、俺たちの側についてくれて。
 色んなところで、フォローしてくれているようだ。

 だが、俺たちがここまで有名になってしまうのは、想定外だ。
 ひとりで頭を抱えていると、ミハイルが声をかけてきた。

「た、タクト……」
 真っ青な顔で、唇をパクパクと動かしている。
「どうした? ミハイル」
「ねーちゃんから、電話がかかってきたの……テレビで、あの動画を見たって」
「ひぃっ!?」
 思わず、悲鳴をあげてしまう。

「すごく怒っていて、今度タクトを家に連れてこいって言われたよ……ねぇ、どうしたら良い?」
「そ、それは……ちゃんと誠意をもって、ヴィッキーちゃんへ結婚の挨拶に行けばいいさ。どのみち、会おうと思っていたからな」
「本当に大丈夫かな? ねーちゃん、なんかいつもと違うんだよ。怒り方が静かで……」
 うわっ。一番、怖い怒り方だ。

「まあ、大丈夫だろ……。日程を組んだら、改めて挨拶に行くよ」

 女装の件も黙ってたし、殺されるかも。
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