夢花火降る

再び訪れる静寂。


喉がカラカラに渇いていることに気づく。しかしそんな都合よく――なんて思った矢先、アヲイさんが何かを抱えて戻ってきた。



「これは私からのサービスです」



ひとりずつ手渡された瓶。夜色の海に、星の欠片が淡く光り輝いている。綺麗で、不思議な光景だった。思わず見惚れてしまう、それは手の届かない月を想うような、恋するような気持ちに近いかもしれない。



アヲイさんが微笑む。



「星屑サイダーっていうんです。星の美しい夜空から掬ったもので、淹れたてなので新鮮ですよ」


「アヲイさんの分は?」


「私はお仕事中ですから。みなさんお疲れだと思うので、眠っててもいいですよ」


そういってアヲイさんは戻っていった。ひとりだけ酒がいいと愚痴ってたおじさんは、またもや少年から冷たい言葉でおしかりを受けていたが。気弱そうな女の人と目を合わせ、思わず苦笑いをする。



「あの猫、そういえばいないなあ」


まるまるとした白い猫もいたはずなのに、姿がまるっきり見えない。きっとどこかに眠ってるのだろうと思い、せっかくもらった星屑サイダーを飲んでみる。



喉の奥で星の欠片がぱちぱちと弾ける音がする。清涼感とほどよいすっきりとしたあまさが心地いい。おばあちゃんの縁側で冷たい水の張ったおけに足をつっこんで、スイカをかじっていたのを思い出す。


風鈴がさらさらとやさしい音色を響かせた、あのなつかしい夏。もう、だいすきだった人はいないけれど。



ふわっと誰かの手のぬくもりを感じた。


知らない手だ。


知らない手のはずなのに、どうしてだろうなつかしい……。

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