「槙野だったら、何味にする?」
「本当の、僕になりたいんだ。」

ヤヨちゃんがフェンスから背中を離して、しっかりと僕に向き直った。

「僕は、自分を見たままで評価されることも、決められることも嫌だった。そのモヤモヤが何なのか分かんなかった。ヤヨちゃんを好きになったことと、このモヤモヤが結びつくのかは分からない。でも、ヤヨちゃんに恋愛対象として見られないことを、性別のせいにしてたのは本当。」

ヤヨちゃんが僕の手をそっと取った。僕も軽く握り返す。

「性別のせいにして、勝手に線を引いていたのは僕自身だったんだよね。僕は…、自分は自分のままで、胸を張ってヤヨちゃんを好きだって言うことが怖かった。だから逃げてたんだと思う。本当に自分がどう生きていきたいか、考えもしないで、自分を偽ることで自分の弱さとか傷を隠そうとした。」

「今は、槙野はどうなりたい?」

「まだ…分かんないよ。ずっと逃げてきたんだもん。何年間も。だからこれからゆっくり考えてみてもいいかな。ヤヨちゃんには隣に居て欲しい。僕がヤヨちゃんを好きでいることは変えられないけど、親友として、一緒に居て欲しい。」

ヤヨちゃんがもう一歩僕に近づいて、そっと、抱きしめてくれた。僕も、同じ様にした。
僕より少しだけ身長が高いヤヨちゃん。僕がちょっとだけ包まれる形になってカッコ悪いけれど、僕は僕のままで、ヤヨちゃんを好きだって、誤魔化さないで言えるようになりたいと思った。

ヤヨちゃんの髪の毛が頬っぺたに当たってくすぐったい。
くすぐったそうにしている僕に気がついて、ヤヨちゃんが体を離して笑った。

「私もまた槙野くらい、ショートにしようかな。」

「あ、後夜祭の時の話、聞こえてた?」

「盗み聞きはお互い様でしょ。」

僕達は顔を見合わせて笑った。
ヤヨちゃんが戻ろっかって、僕の手を引いた。その手のひらを、僕も強く握り返した。
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