「槙野だったら、何味にする?」
僕達は、来月卒業する。あと一ヶ月ちょっとしかない時間を埋める様に、ヤヨちゃんは積極的に涼太をお昼ご飯に誘ったり、移動教室を一緒にしたり、休み時間もたくさんお喋りをしていた。
涼太はやっぱり優しくて、最近では一つ一つにちゃんと答えてあげている。

ヤヨちゃんは、お昼に焼きそばパンを食べなくなったし、オレンジジュースも飲まなくなった。
最近はりんごジュースと「じゃがちゃん」、時々はお弁当を自分で作ってきたりもしている。

僕はあとちょっとしかない時間を、自分だってそりゃヤヨちゃんともっと過ごしたいけれど、ヤヨちゃんにだって涼太との時間を大切にして欲しい。だから時々は一人で屋上でお昼ご飯を食べている。
一人で食べなくったっていいんだけど、一人の方が考え事が捗った。まだ答えを出せていない、自分自身のことを。

涼太は前はよく一人で屋上に来ていたけれど、最近ではヤヨちゃんに色々な所に連れ出されているみたいだった。恋人というよりは、まるでお兄ちゃんと妹みたいだった。

僕は今日も一人で屋上に来た。朝から雪が少し散らついていて、少し迷ったけれど、こういう景色も見ておきたかった。涼太はいつも一人で、ここからどんな景色を見ていたんだろう。
一緒に寝転んだ、高ニの六月。あの蒸し暑い中で、何を想っていたんだろう。

僕達三人は、もう少しで壊れてしまいそうだった関係性をなんとか修復して、前よりも距離が近づいたと思っていた。けれど、なんにも変わってなんかいないのかもしれない。
ずっとそれぞれが一方通行で、大切にしている物や、見ていた世界はまるで違ったのかもしれない。
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