「槙野だったら、何味にする?」
「雫。」

え、と思って涼太の顔を咄嗟に見た。涼太は僕の手を見ている。手を見ているのか焼きそばパンを見ているのかは分からないけれど。

袋に落ちていく雪を、人差し指でツーっとなぞってみた。

「あぁ…、雫、ね。パンまで滲みちゃうかな。ビニールだし平気か。」

僕は一人で喋っている。涼太は次は、僕の目を見て、言った。

「雫。」

胸がザワザワする。涼太の目から視線が離せない。

「お前の恋は、あまりにも無謀だ。」

「喧嘩売ってんの?」

「いくらで買う?」

「タダでも要らない。」

涼太は渇いた笑い方をした。雪が少しずつ強くなってきている。寒かった。

「雫…、槙野に言ったってしょうがないんだろうけど、槙野だって絶対に、結末は分かっているはずだろ。」

「そんなこと分かんないよ。絶対なんて無い。」

「綺麗事だ。」

「だったら何。」

涼太の言葉に苛立ちが隠せない。こういうところが子供で情けない。でも、涼太にそんなこと言われる筋合いも無い。自分だってずっと、ヤヨちゃんを苦しめてきたくせに。

「槙野。恋愛とかよく分からない俺だって、お前がヤヨを好きなことくらいすぐに気づいたよ。何でヤヨなんだろうって思った。何度も何度も思ったよ。正直、普通は…違うだろとも思ってしまった。でもそんなこと思ってしまう俺はすごく幼稚だったと思う。」

たった今まで苛立っていた気持ちが、スッと冷えていく。何で涼太が泣きそうなんだろう。何で涼太はこんなに必死なんだろう。

「槙野に何回もごめんって思った。お前の恋を壊しているのが自分だってことも分かってた。俺は槙野とヤヨ、両方をずっと、この三年間傷つけ続けた。」

「涼太、それは違う。僕もヤヨちゃんもただどうしても好きでしょうがなかっただけなんだよ。誰になんて言われたって。苦しい時なんか山ほどあったよ。でもそれでも、三人で居るのが僕もヤヨちゃんも好きだった。」

涼太は俯いて、首を横に振った。
涼太の叫びが雪に吸い込まれていく様な気がした。誰も居ない屋上で、涼太が小さく見えた。
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