「槙野だったら、何味にする?」
2-Bと書かれたサインプレート。この教室で間違いがないことを確認して、スライド式のドアを開けた。

「槙野!」

ガラガラっと音を立てたドアに、既に教室に居た何人かがこっちを見て、その中の一人が僕の名前を呼んだ。

「まきのー!またおんなじクラスだね。やった!」

駆け寄ってきて僕の腕を持ってブンブンと振る。無邪気な声と笑顔。もしも僕に尻尾があったなら、この振られている腕みたいに、もしかしたらそれ以上にブンブンと振っていたかもしれない。

「ヤヨちゃん。おはよう」

「槙野がまた同じクラスでほんとに良かったー。不安だったんだよね。クラス離れちゃったらどうしようって。あ、それと」

「涼太も、ね。」

ヤヨちゃんがその名前を呼ぶ前に、僕の声が遮った。ヤヨちゃんは一瞬きょとんとしたけれど、すぐに「うん!」て、にこにこした。

今はまだヤヨちゃんにその名前は呼ばせたくない。今はまだ、僕の時間。

にこにこした顔は、今日イチの可愛さだったけれど。
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