「槙野だったら、何味にする?」
「眠ってていいよ。」

左手でヤヨちゃんのお腹の辺りを、掛け布団の上からぽん、ぽんとした。

「うん。」

ヤヨちゃんは目をつむって、僕の手首を離した。そのまま両手を掛け布団の中に入れた。僕は空いた手でヤヨちゃんに掛け布団を綺麗に掛け直した。

「ヤヨちゃんは子供だね。」

「もう十八歳になったもん。」

「知ってるよ。」

「誕生日、おめでとうって言われてない。」

「おめでとう。」

「遅いよ。」

ヤヨちゃんは目をつむったまま喋り続ける。

「ごめんね。涼太からは?」

「トークで、おめでとうって。」

「そっか。良かったね。」

「うん。でも槙野からは来なかった。忘れちゃってた?」

ヤヨちゃんは根に持っているらしい。僕は、わざとトークアプリでも通話でも、ヤヨちゃんにおめでとうを言わなかった。ヤヨちゃんは涼太からのおめでとうを一番に待っていたはずだ。特別な日に、卑屈になってしまっていたことは認める。

忘れちゃうわけないよ。忘れられるはずがない。でも僕は、忘れてないよって、ヤヨちゃんに言えなかった。
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