千の恋よりも、あなただけ
別離
深夜23:51。

いつものように他愛ない話のあと、

「あのさ」

そう言うジローくんの声が硬い。

「どうしたの?」

「こうして電話でおやすみを言うのは、もう終わりにしたいんだ…」




思考が止まる。

目の前から色彩が消えていく。

私は絶句していた。

絶対に終わらせたくなかったこの恋が、いま突然終わろうとしていることを、やっと理解すると、泣き崩れそうになった。

「茉子ちゃん?」

ジローくんはそうたずねるけれど、

「わかったわ…」

涙声で答えた。

「じゃあ、おやすみ…」

ジローくんは言った。

最後の「おやすみ」ね…。

さよなら、でしょう?

どうして今夜も、おやすみなの…?

別れを切り出した彼の、最後の優しさなのかもしれないが、その優しさすら今は胸に痛い。
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