千の恋よりも、あなただけ
出会いと別れ
ゴールデンウィークも過ぎた頃。

週末だからと、あちこちでショッピングをしていたら、つい帰りが遅くなった。

食事も新宿で済ませてこればよかったのに、つい習慣で、私の足はいつもの食堂へ向かってしまう。

「あ…」

思わず、小さく落胆の声が漏れた。

私が食堂の出入口のすぐ側まで来た時、いつも店で働いている、背が高く精悍な顔立ちの若い男性が出てきて、店の暖簾を仕舞おうとしていたのだ。

彼と目が合ったので、

「もう、閉店なんですね!じゃあまた…」

閉店時刻では仕方ないと思い、帰ろうとすると、

「あ…!一寸待って!」

そう言って、男性は店内に向かって何か言っていた。

「今夜はまだ大丈夫ですよ。お客さんにはいつも来てもらってるし…是非ゆっくりしていってください」

照れたように笑った顔があまりにも目映すぎて…なんだか焦ってしまう。

いつも来ていた店なのに、店の人と言葉を交わすのは初めてだった。

「さ、どうぞどうぞ」

彼と似た笑顔の素敵なおばさんが、迎えてくれる。

店内にもう客はなかったので、私たちはいろいろ話した。

この店は、この背の高い男性の両親が経営していて、彼はシェフを目指し、専門学校に通いながら、店の仕事を手伝っていること、年齢は偶然にも同じだということ、名前は都築治郎であることを知った。
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